東海大菅生0-2健大高崎
石垣元気(健大高崎) 3年 投手 180cm7kg 右投両打
© 野球太郎
今年の高校生で最注目の存在と言えばやはり健大高崎のエース、石垣元気になるだろう。1年春から公式戦で登板し、甲子園にも春夏合わせて4度出場したこともあって、そのピッチングを見る機会は多かったが、その中でも最も強烈なインパクトを残したのが3年春の関東大会、対東海大菅生戦だった。
遡ること約2か月前に行われた選抜高校野球ではわき腹を痛めた影響もあって本調子ではなかった石垣。この日は故障から復帰して2戦目の登板ということで、どこまで状態が上がっているかに注目が集まっていた。石垣の出番が訪れたのは0対0で迎えた6回表だ。ツーアウトからヒットで出塁を許したものの後続を抑えて無失点でしのぐと、7回以降は一人の走者も許さないパーフェクトピッチングで見事に試合を締めて見せた。
圧巻だったのがストレートの出力の高さだ。筆者のスピードガンでは計測できたストレートが全て150キロを超え、最速は155キロをマーク(球場表示の最速は156キロ)。その平均球速は152.5キロを記録した。1イニング限定でなく、4イニングを投げてこれだけ高い出力を維持できるアマチュア選手は大学生、社会人を含めてもそうそういるものではない。さらに末恐ろしいのは、フォームや腕の振りにまだまだ余裕が感じられるというところだ。1イニング限定で目いっぱい腕を振れば、現在でも160キロ近いスピードをたたき出す可能性は高い。
そして石垣の凄さは決してスピードだけではない。この日投じた48球のうち、ボール球はわずかに12球であり、ストライク率は75.0%に達している。これも先発やロングリリーフではなかなか見る数字ではなく、コントロールが安定しているとともに、いかにストライクゾーンで勝負できているかがよく分かるだろう。さらに変化球も130キロ台中盤のフォーク、140キロ台のカットボールはいずれも打者の手元で鋭く変化しており、空振りを奪えるだけの質の高さがある。この日の投球ができれば、高校生レベルでは打ち崩すのは極めて困難と言えるだろう。
出力の高さが体に与える負担を考えて、夏はリリーフに専念し、群馬大会と甲子園では3試合、合計わずか7イニングの登板に終わった。高校ナンバーワンと言われる投手が怪我がないにもかかわらず、最後の夏にこれだけしか投げなかったというのは前代未聞のことであるが、それもまた石垣のポテンシャルの高さをよく示していると言えるのではないだろうか。高く跳ぶには一度沈み込む必要があるだけに、この夏の経験をバネに、プロで大きく羽ばたいてくれることを期待したい。

西尾 典文 Norifumi NISHIO
1979年、愛知県生まれ。大学まで選手としてプレーした後、筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から技術解析などをテーマに野球専門誌に寄稿を開始。2017年からはスカイAのドラフト会議で解説を務め、最近では仮想ドラフトにも出演。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材する熱血スポーツライター。