2023年4月11日 高校野球春季茨城県大会 J:COMスタジアム土浦
守谷0-7霞ヶ浦(7回コールド)
木村優人(霞ヶ浦) 3年 投手 184㎝76㎏ 右投左打
© 野球太郎
「今年は(甲子園に出場している選手の中で)投手の候補が少ない」。夏の甲子園期間中にスカウト陣からよく聞かれた言葉である。しかしこれは今年全体の話というよりも、有望選手が地方大会で多く敗退したという印象が強い。その筆頭と言えるのが霞ヶ浦の木村優人だ。下級生の頃から評判となっていたものの、昨年は1学年上に赤羽蓮(ソフトバンク)、渡辺夏一(桐蔭横浜大)、山田大河(茨城アストロプラネッツ)と好投手が多かったこともあり、野手としての出場が多かった。2年秋はフル回転の活躍を見せたが、あと一歩のところで関東大会出場を逃している。それでも素材の良さはスカウト陣の間でも評判になっており、4月2日に行われた木更津総合との練習試合でも7回を1失点、7奪三振と好投を見せていた。ただこの時は練習試合が重なっていた疲労もあってストレートの最速は140キロにとどまっており、万全の状態での投球を見たいと思い、春の茨城県大会に足を運んだ。
迎えたこの日、木村は期待通りのピッチングを披露する。1回から3回まで1人の走者も許さず、2回から3回にかけて4連続奪三振もマーク。4回に初ヒットを許して大記録は逃したが、走者を背負っても全く慌てることなく三振を量産。最終的に6回を被安打2、13奪三振、四死球0とほぼ完璧な内容でチームを勝利に導いた。
ストレートは約10日前の練習試合と比べても明らかにボールの勢いがあり、最速は148キロをマーク。しかしそれ以上に素晴らしかったのがボールの角度と変化球だ。高い位置から楽に鋭く腕を振ることができており、フォームの流れも実にスムーズで引っかかるようなところがない。そしてカットボールとスプリットはホームベースの近くで鋭く大きく変化するため、打者の目線からはストレートと全く見分けがつかないのだ。特筆すべきはそのボールの軌道である。いくらスピードがあって変化が鋭いボールでも、最初からストレートと違う球筋だと打者は対応することができる。しかし木村のボールは途中までストレートと変わらない軌道であり、そんな高レベルな変化球を2種類操ることができる高校生はそういるものではない。
体つきはプロフィールの数字を見ても分かるようにまだ細身だが、手足が長くいかにも投手らしい体型で、筋肉がついてくればまだまだスケールアップする雰囲気も十分だ。夏の茨城大会では決勝戦の8回まで3点のリードを奪いながら、9回にまさかに逆転を許してあと一歩のところで甲子園出場を逃したが、それでもこの日も含めて春から夏にかけて見せた投球は見事の一言だった。総合的に見ても高校生投手では全国で屈指の存在だけに、将来のローテーション候補が欲しい球団にとっては垂涎の存在となりそうだ。
西尾 典文 Norifumi NISHIO