テイ・エス テック0-3日本通運
冨士隼斗(日本通運) 23歳 投手 180cm86kg 右投右打 大宮東→平成国際大
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先日幕を閉じた都市対抗野球。多くのドラフト候補が登場したが、残念ながら出場機会がないまま大会を去った有力選手も存在している。その筆頭格と言えるのが日本通運の冨士隼斗だ。大宮東では全く無名の存在だったが、平成国際大進学後に大きく成長。3年秋には最多勝、最多奪三振、ベストナインのタイトルを受賞し、その後に行われた大学日本代表候補合宿でも最速155キロをマークして話題となった。しかし大学時代はスピードこそあったものの、コントロールと変化球が課題で安定感には乏しく、4年秋には腰を痛めた影響で大きく成績を落としたこともあって指名漏れとなり、日本通運に進むことになった。
社会人1年目はリリーフでの登板が多かったが、9月に行われた日本選手権予選の明治安田戦では先発を任されて6回を1失点と好投。2年目の今年は春先のオープン戦から先発としての登板を重ね、投手陣の一角に定着を果たした。そしてその成長ぶりを見せたのが都市対抗出場がかかった第1代表決定戦のテイ・エス テック戦だ。立ち上がりこそ少し抜けるボールが多くいきなり四球を与えたものの、その後の打者を打ち取って無失点で切り抜けると、2回以降は安定したピッチングを披露。5回に先頭打者にこの日初ヒットを許して迎えたワンアウト二塁のピンチも連続三振で失点を許さず、最終的に被安打1、7奪三振で完封勝利をあげて見せたのだ。最速152キロをマークしたストレートは最後までスピードが落ちることがなく、アベレージでも150キロ前後を記録。大学時代と比べると明らかに力を抜いて速いボールを投げられるようになり、コントロールも安定したい印象を受ける。変化球は140キロ台のスプリットと130キロ台後半のカットボールが中心で、いずれもしっかり腕を振って投げることができ、ストレートと同じ軌道から鋭く変化し、決め球として使えるボールだ。また中盤からは120キロ台前半のカーブも多く使い、緩急を使えるようになった点も大きな成長である。この日も多くのスカウトが視察に訪れていたが、大きなアピールとなったことは間違いないだろう。
冒頭でも触れたとおり、都市対抗の本戦ではチームが初戦で敗れ、冨士の登板機会はなかったが、それだけに残りの公式戦でより注目が高まったとも言える。9月中旬に行われる日本選手権の予選でも都市対抗予選のような投球を見せることができれば、大学時代に逃したドラフト指名も見えてくるだろう。

西尾 典文 Norifumi NISHIO
1979年、愛知県生まれ。大学まで選手としてプレーした後、筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から技術解析などをテーマに野球専門誌に寄稿を開始。2017年からはスカイAのドラフト会議で解説を務め、最近では仮想ドラフトにも出演。アマチュア野球を中心に年間約300試合を取材する熱血スポーツライター。